ぶらログ

真・清く正しくおぞましく

ただの競馬好きによる『20世紀少年』と『明日、君がいない』

久しぶりに浦沢直樹の『20世紀少年』+『21世紀少年』を読んだ。

 

連載時、ネット上でともだちの正体に関する他人の考察を読むのがちょっとした楽しみだったのが懐かしい。読み終えて、とある映画のことを思い出した。

 

以下、めっちゃネタバレ含む。

 

 

 

 

で、ともだちの正体はカツマタくんだったわけだが、当時この結末をどう思っていたのかは覚えていない。でも、今読み返したらこれでいいじゃんて思った。何かの媒体で浦沢が「ともだちの正体は誰だっていい」みたいな趣旨のことを言ってた記憶があるのだが、確かにその通りだ。“ともだち”は記号みたいなものなのかも。これがキャラ立ちがはっきりしている誰かになっていたら途端にしょぼい動機に見えていたに違いない。カツマタくんもしょぼいといえばしょぼいのだが。

 

カツマタくんはいうなれば『透明な存在』だった奴だ。

誰しも思い当たる節があるのでは。「そんな奴いたっけ?w」「誰だよw」とネタにされる元クラスメート。

そんなネタにされ続けていたのがカツマタくん。元々は被害者でもあったわけです。

無邪気に虐げられ、ゴミ扱いされ、罪を押し付けられ、挙句の果てに存在がなかったことにされた人間。認知が歪みに歪んだカツマタくんは、後にカルトの長として君臨する。

 

 

一方、『明日、君がいない』(2006)という映画がある。

オーストラリアのある高校でひとりの生徒が自殺をする。映画は時間をさかのぼり、それが誰だったのか、なぜ自殺をしたのかを紐解いていく。主要登場人物は6人。6人は一見普通の高校生に見えるが、それぞれある問題を抱えている。

では、その6人の中の誰が自殺したのか。

 

 

 

ここからはこの映画のネタバレです。

 

 

 

 

 

誰でもない。この6人は脇役にすぎない。

自殺したのは劇中ちょこっとしか出番がない「唯一まともそうな生徒」であるケリー。

見返すと確かに伏線は張られている。しかし、ケリーの動機は直接的には描かれない。

誰からも見てもらえない、透明な存在でしかない自分に苦しむティーン。

 

カツマタくんもケリーも「透明な存在」「その他」「誰だっけw」で片付けられてしまった人間。

カツマタくんは、その攻撃性が外へ向かった。殺戮を繰り返し、モンスターになってからようやく存在が認知された者(その正体に気づいたのはごく一部の人間だったが)。やさしそうなケリーもまた攻撃性を秘めている。でなければわざわざ学校で自殺はしない。強烈な自意識がある。しかしそれが内へ向かった。さっさと10代で人生に見切りをつけ、それによって気づいてもらえた者。

カツマタくんと比べるとケリーは平穏な人生に見えるが、描かれていない何かがあったのかもしれない。いずれにせよ、どちらも誰かに自分を見てもらいたかった者。

歩んだ方向は違えど、この両者のスタート地点はそれほどかけ離れてはいない。この2つの作品は似た者をそれぞれ別のアングルから捉えていただけの違いがあるにすぎない。

 

駄菓子屋でついた自分の嘘によってモンスター(カツマタくん)が生まれてしまったことを多数の死者が出てからようやく把握し、最後の最後にカツマタくんに謝りに行く『20世紀少年』のケンヂ。ケリーが死んでから、ああすればよかったこうすればよかった、いやむしろこの残酷な世界で早めに死ねたのは幸せだとか自分勝手に各々の胸中を語る『明日、君がいない』の同窓生たち。

どちらも自己完結の世界。

 

 

では、自分がカツマタくんとケリーに同情するかといえばそれはない。こんな10代どこにでもいる。自分も似たようなもんだからその苦しみはわかるというだけ。ただただ「どうしようもないよな」と諦念に至るだけ。生きてこそとも思わない。自分がいまのところ怪物にならず、生きているのはたまたま。

それと、この手の物語は極端なケースばかりで食傷気味というのがある。悪玉になったり自殺したり大成功収めてたり無差別殺人をしでかしたりヒーローになってたり。そんな大げさな奴より淡々と日常を生きてる人間の存在に少しは目をやれよと思ってしまう自分がいるのだが、もちろんそんな人間を主人公にしたところで作品にはならない。

ケンヂとケリーの同窓生にそこまでの罪があったかといったら、それもないだろう。

ただ、デカイ事件が発生してから世間様はようやくその人物に目を向ける。身近にいた人間はそういえばそんな奴いたなあと気づく。まあ、そうはいってもどうにもならないし自分も時にはその世間側にいるわけです。

少し文句も書いたが、『20世紀少年』と『明日、君がいない』はそんな“世間側”にいる人間をぶん殴る佳作だった。お前ら気づけよ、せめてゴミ扱いはするなよ、事件が起こってからああだこうだ言ってんじゃねーぞ、“カツマタくん”や“ケリー”はお前らのそばにだっているんだぞ、と。

 

 

とは書いてみたものの、こんなの古今東西使い古されたテーマであって、この2つの作品だけに共通しているわけでもなく掘り起こせば他にいくらでも出てくる。ただ、『20世紀少年』を久しぶりに読んで思い出したのが『明日、君がいない』で、この2つの作品に出会ったのは10年以上前なのだけど、今になってなんとなくそう思って書きたくなった。

 

 

 

 

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